人の体内には多くの神経が通っています。自律神経は、体内の内臓や血管の働きを自分の意思とは関係なく、24時間自動的に調整してくれます。
例えば、呼吸や脈拍、血液循環、体温調節、発汗、食物の消化、排尿、排便などは自律神経によって調整されています。眠っていても生命活動の維持ができるのは、自律神経が働いているからです。
また、自律神経は交感神経と副交感神経の2種類から成り立っています。交感神経は体を緊張させ活動性を高め、副交感神経は体を休める状態へ導く作用があります。
交感神経と副交感神経は互いに反する働きをしながら、各器官をバランスよく調整しているのです。例えるなら、車のアクセルとブレーキのような関係です。自律神経は、自分の意思でコントロールすることができないため、日頃の生活習慣で整える必要があります。
自律神経失調症とは?
交感神経と副交感神経のバランスが崩れたときに、自律神経失調症は起きます。交感神経は、日中活動をするとき、心身が緊張し興奮するときに働きます。副交感神経は夜間くつろいだり眠ったり、心身がリラックスするときに働きます。
交感神経系の症状は、動悸や息切れ、めまい、頭痛、不眠、冷え性などです。一方、副交感神経の症状は、食欲不振、胃もたれ、便秘、下痢、無気力感などが現れます。
また、自律神経失調症は4つのタイプに分けられます。
①本態性自律神経失調症
生まれつき自律神経の調整が乱れやすい体質のタイプです。低血圧、虚弱体質、体力がない人に見られます。
②神経症型自律神経失調症
心理的な問題で強く影響が出るタイプです。自分の体の不調に敏感な人で、ちょっとした精神的ストレスがすぐ体に現れます。感受性が豊かで、繊細な人や精神状態に左右されやすい人に見られます。
③心身症型自律神経失調症
日常生活のストレスによって起こるタイプです。自律神経失調症の約半数がこのタイプで、几帳面で真面目な人に見られます。
④抑うつ型自律神経失調症
慢性的なストレスによって起こるタイプです。やる気が起きない、気分が沈んでいるなどの「うつ症状」があり、几帳面で完璧主義の人に見られます。
検査をしても原因がはっきりとわからない体の不調を、自律神経失調症と言います。過度なストレスの刺激で交感神経の興奮が続くと、高血症、狭心症、不整脈、糖尿病などの原因になりますので早めの対策が必要です。
体の不調を感じる…自律神経乱れの原因
自律神経が乱れるのは、ストレスが原因であることが多いです。しかし、ストレス以外にも複数の原因が考えられる場合も。もともとの体質で自律神経が乱れやすい人もいれば、不規則な生活習慣が原因で乱れてしまう人もいるのです。
不規則な生活習慣とは、食生活の偏りや、運動不足、睡眠不足、喫煙・深酒などです。また、自律神経の乱れと同じような症状が見られる疾患に、更年期障害やバセドウ病、甲状腺機能低下症などが挙げられます。
自律神経の乱れによる症状は、疾患によって引き起こされている可能性もあるため、自律神経以外の原因がないか事前に把握しておくことも大切です。女性の場合、加齢に伴うホルモンバランスの変化によって、自律神経が乱れることがあります。
原因についてもう少し詳しく見ていきましょう。
自律神経乱れの原因1:ストレス
ストレスは大きく分けて2つあります。人間関係や仕事の責任からくる精神的なストレスと、環境の変化や過労、身の回りの光や音、温度などからくる身体的ストレスがあります。ストレスを受ける原因はさまざまですが、過度なストレスは自律神経失調症になる恐れがあります。
また、ストレスに弱い体質や性格の人は、自律神経を乱しやすい傾向です。例えば、子供の頃から緊張のある場面で吐きやすかったり、下痢になりやすい、または環境が変わると眠れなくなるなど、生まれつき自律神経が過敏な人。ノーと言えない、感情表現が苦手で気持ちの切り替えがうまくできないといった、ストレスへの抵抗力が弱い人は注意です。
ほどよいストレスは、脳の働きを活性化させ集中力を高める効果が期待できますが、過度なストレスは不安や悩みが大きくなり、自律神経が乱れやすくなります。
自律神経乱れの原因2:食生活・睡眠の乱れ
甘いお菓子やスナック菓子、コーヒーの過剰摂取は自律神経に悪影響を及ぼします。甘いお菓子に含まれている糖分は、体温を下げる効果があり、血糖値を急上昇させるのです。コーヒーに含まれるカフェインを過剰に摂取すると、中枢神経によるめまいや吐き気、嘔吐、動悸といった症状を引き起こします。
糖分やカフェインは、適度な量であればストレスを軽減する効果がありますが、摂りすぎると自律神経を乱す恐れがあるので注意が必要です。
また、睡眠不足も自律神経失調症と深い関わりがあります。良質な睡眠は体や脳、活動によって消耗した筋肉や内臓を修復する役割があります。この役割がうまく働かないと、心身はストレスを感じるようになり、自律神経失調症につながるのです。
自律神経乱れの原因3:喫煙・飲酒
タバコに含まれるニコチンは交感神経を過度に刺激し、心拍数や血圧の上昇、血管を収縮させる作用があります。「タバコを吸うとストレスが解消される」という人もいますが、これはニコチンに依存性があるためです。
「ニコチン切れ」の状態になると脳はニコチンを求めるようになります。しばらくタバコが吸えない状態が続くと落ち着かなくなり、イライラし始めます。このようなときにタバコを吸うと脳は満足し、ストレスが解消されたかのように錯覚するのです。
飲酒も喫煙と同じことが言えます。アルコールも交感神経を刺激し、血管を収縮させる作用があります。その上、副交感神経を低下する作用も。深酒はアルコールが長時間体内に残り、その間はずっと副交感神経が刺激され続け、血管の収縮が長時間続きます。
ストレス発散としての喫煙や飲酒が、かえって体に負荷を与える場合もあるのです。
自律神経乱れの原因4:不規則な生活
不規則な生活も自律神経が乱れる原因となります。朝起きる時間や食事をする時間、寝る時間など毎日バラバラに過ごしていると、神経伝達物質セロトニンの分泌に支障をきたし、うつ病になりやすいと言われています。
昼夜逆転の生活、慢性的な睡眠不足、夜間勤務といった不規則な生活習慣を続けると体内時計(体内リズム)が狂い、自律神経のバランスが乱れていくのです。体内時計が狂うと、昼間頭がぼーっとしたり食欲不振になったりと、一つひとつは些細であるものの体に影響を与えています。
不規則な生活の慢性化は、自分では気づかないところで体に疲労感をもたらし、徐々に体を不調へと導いているのです。
自律神経失調症になってしまった場合の症状とは?
自律神経失調症になると特に思い当たる原因がなくても、さまざまな症状として体に現れます。体の慢性的な疲労、倦怠感、めまい、ふらつき、のぼせ、冷え、頭痛、耳鳴り、動悸、便秘、下痢、生理不順、口や喉の不快感、手足の痺れ、頻尿、残尿感、発汗、肩こりなど症状は多岐にわたります。
精神的な症状としては、イライラや不安感・焦燥感、疎外感、やる気が出ない、憂うつ、感情の起伏がある、不眠、食欲不振、記憶力や集中力の低下といった多くの症状があります。複数の症状が別々に現れることもあれば、同じタイミングで3つ、4つの症状が重なることも。
体がだるくて頭がぼーっとしたり焦りを抱いていて不安になったり、意欲も食欲も湧かなかったりすれば、自律神経失調症の可能性があるでしょう。症状を放置すると器官に負担がかかり続け、より重篤な疾患になる恐れがあります。
普段の生活で改善する!自律神経7つの改善策
自律神経失調症を発症すると自力で治すことは難しいとされています。上記のような症状があった場合、まずは一度病院を受診し、症状の原因を特定しましょう。原因を特定したら医師と相談のうえ、薬物療法やカウンセリングといった治療を行います。
自律神経失調症の多くは生活習慣による影響を受けています。自身の生活を見直すことで症状が和らいだり、改善されたりすることもあります。日頃から自分でもできる改善策を取り入れてみましょう。
1.深い深呼吸をする
イライラしている時や不安な時、眠れない時、緊張している時は呼吸が浅くなっています。こんな時こそ、ゆっくりと深呼吸するのが効果的です。深呼吸によって自律神経を刺激し、副交感神経を高めるのです。
①正しい姿勢を意識する
②深く吸って、肩が上がるほど胸いっぱいに吸う(約4秒間)
③ゆっくり細く長く吐く(約8秒間)
深呼吸には胸式と腹式と種類がありますが、この場合は気にせずに、思い思いの方法で行って構いません。また深呼吸のときには吸うこと、吐くことにだけ意識をします。特に“吐くこと”に集中してみましょう。
2.マグネシウム・カルシウムを摂る
マグネシウムには、タンパク質の合成、心機脳の維持、神経伝達、血圧調整などの働きがあります。不足すると心疾患、筋肉の痙攣、神経・精神疾患、不整脈、食欲不振、下痢・便秘などの症状を引き起こすと言われています。
カルシウムは神経伝達に重要な役割を果たす成分です。神経細胞の興奮を抑える作用があり、不足すると怒りっぽくなると言われています。
カルシウムとマグネシウムはお互いに協力し合う関係です。マグネシウムが足りなくなると、カルシウムの値も同じように下がってしまうと言われるほど。マグネシウムとカルシウムには交感神経を抑制し、副交感神経を高める効果があります。
マグネシウムを多く含む食品
・海藻類(昆布、わかめ、ひじきなど)
・海水から精製された塩
・ナッツ類(ひまわりの種、ごま、くるみ、アーモンド、カシューナッツなど)
・豆類(きな粉、大豆、豆腐、納豆など)
カルシウムを多く含む食品
・乳製品(牛乳、チーズ、ヨーグルトなど)
・豆類(豆腐、納豆など)
・野菜類(小松菜、大根など)
・小魚
・海藻類
3.深夜0時前には就寝する
良質な睡眠を取るため、できれば早めに就寝するよう心がけましょう。心配事があったり不安だったり興奮・緊張状態にある場合は、すぐに寝つけないこともあります。自分がリラックスできる環境を作ってみるといいかもしれません。
例えば、体が緊張状態の場合は、先ほどの深呼吸を試してみる。自分がリラックスできる香りや音楽を用意する。肌触りのいいシーツを用意したり、抱き枕など落ち着くものをそばに置いたりするのもいいでしょう。
そして、インターネットから入る情報は刺激が強く興奮状態になるため、布団に入ったらパソコンやスマホのデジタルデバイスには触れないのがおすすめです。
4.腸内環境を整える
腸には脳に次ぐ多くの神経細胞が存在し、感情にも深く関わっているため「第二の脳」とも呼ばれています。精神的ストレスが腸の不調にもつながるのです。
腸は、交感神経が優位なとき“働きは停滞”し、副交感神経が優位なとき“働きは活発化”します。副交感神経がうまく作用していれば腸内の不要物は押し出され、腸内環境にも良い影響をもたらしてくれます。自律神経と腸内環境は、相互作用の関係にあるのです。
腸内環境を整える方法としては以下の方法があります。
- 起床後、コップ1杯分の水をゆっくり飲んで、朝食をとる
- ビタミンやミネラル、食物繊維を摂るよう意識したメニューを入れる
- 適度に仮眠、お昼寝をする
- 軽い運動をする
- 夕飯は軽めに、就寝する3時間以上前にとる
5.首を温める
首には太い血管が通っているため、温めることによって全身の血流が良くなります。血流が良くなることによって冷えや肩こりが軽減するほか、体の筋肉の緊張を取り除けます。副交感神経の活性化につながるため、リラックスしやすくなるのです。
最近では、シャワーだけで済ませる方も多くなりましたが、湯船に浸かり全身浴をすることは、首を温めるだけでなく、体も癒してくれます。日中、疲れを感じたときや、就寝30分前を目安にホットタオル、温熱シートを利用して首を温めてみるのもいいでしょう。
6.規則正しい生活を心がける
毎朝、決まった時間に起きて、太陽の光を浴びましょう。光を浴びることによって体内のセロトニンが活性化します。このセロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれており、自律神経を整える働きがあるのです。
太陽の光を浴びることによって体内時計もリセットされ、活動する時間と休息する時間のリズムが生まれます。体内時計がきちんと働くと、夜の睡眠の質も高まります。食事をする時間も、できれば決まった時間に取るといいでしょう。
7.生活に適度な運動を取り入れる
運動することは、ストレス解消にもなります。体を動かすことによって心臓から血液が送り出され、セロトニンをはじめとした神経伝達物質が活性化し、リフレッシュできるのです。
いきなり激しい運動をするのは体への負担が大きいため、散歩やストレッチなどから始めてみてください。体のさまざまな筋肉をゆっくり伸ばす運動が効果的とされています。ストレッチをするときは、夜寝る前か朝起きた時に行うのがおすすめです。
自律神経が乱れないような生活を心がけよう!
日頃、生活していて原因不明の症状に悩まされている方も多いのではないでしょうか。一時的であればいいのですが、常に心身の不調に悩んでいる方は、もしかしたら自律神経の乱れが原因かもしれません。自律神経は自分の意思でコントロールすることが難しいため、日々の生活を見直し、注意しながら生活していく必要があります。
全てを見直し、実践していくのは時間がかかるかもしれません。かえってストレスになる可能性もあるので、自分ができる範囲から徐々に、生活習慣を変えてみてはいかがでしょうか?自律神経とうまく付き合い、健康的で快適な毎日を過ごしていきたいですね。
